ランニングのパフォーマンスを左右するのは、トレーニングだけではありません。「何をいつ食べるか」という食事の内容とタイミングが、走りの質や体の回復に大きく影響します。
「走る前に何を食べればいいの?」「走った後は何を食べるべき?」「大会前の食事はどうすれば?」といった疑問は、初心者ランナーが必ず直面する問題です。
この記事では、ランナーの日常的な食事管理からランニング前後の栄養補給、レース前のカーボローディングまで体系的に解説していきます。
ランナーに必要な栄養素の基本
炭水化物(糖質):ランニングの主要エネルギー源
ランニング中に体が最も効率的に使うエネルギー源は、筋肉と肝臓に蓄えられたグリコーゲン(糖質の貯蔵形態)です。グリコーゲンが枯渇すると、突然脚が動かなくなる「壁にぶつかる(ボンク)」状態に陥ります。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、1日のエネルギーの50〜65%を炭水化物から摂取することが目標量とされています(参考:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(厚生労働省))。ごはん、パスタ、パン、うどん、芋類などが主な供給源です。
タンパク質:筋肉の修復と成長
ランニングで傷ついた筋繊維を修復し、より強い筋肉を作るためにタンパク質は欠かせません。運動する人のタンパク質は、体重1kgあたり1日1.2〜2.0gが目安とされています(参考:Nutrition and Athletic Performance(米国スポーツ医学会ほかの合同声明・2016年))。体重60kgの方であれば、1日72〜120gが目安です。
鶏むね肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などが良質なタンパク質源です。同じ合同声明では、1日の量をまとめて摂るより、運動後や3〜5時間ごとの食事で体重1kgあたり0.3g程度(体重60kgで約18g)ずつ分けて摂る方法がすすめられています。
脂質:持久力を支える長時間のエネルギー源
脂質は、低〜中強度の運動時に主に使われるエネルギー源です。1gあたり9kcalと、炭水化物(4kcal/g)やタンパク質(4kcal/g)の2倍以上のエネルギーを持っています。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、脂質の目標量は1日のエネルギーの20〜30%とされています。
ただし、飽和脂肪酸(バター、脂身の多い肉など)よりも、不飽和脂肪酸(オリーブオイル、ナッツ、青魚など)を中心に摂ることが体にとって望ましいです。
ビタミン・ミネラル:体の機能を支える微量栄養素
ランナーが特に注意すべきミネラルは鉄分です。日本陸上競技連盟は、アスリートの貧血でもっとも多いのは鉄欠乏性貧血だとしています(参考:日本陸連「アスリートの貧血対処7か条」)。ランニングでは足裏への着地衝撃で赤血球が壊れる「溶血」が起こることもあるとされ、特に女性ランナーは鉄分不足に気をつけたいところです。レバー、ほうれん草、小松菜、あさりなどから意識的に鉄分を摂取しましょう。
また、カルシウムは骨の強化に不可欠で、疲労骨折の予防につながります。ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける役割があり、日光浴や魚類(サケ、サンマなど)から摂取できます。

ランニング前の食事|タイミングと内容

3〜4時間前:しっかり食べられる時間帯
ランニングの3〜4時間前であれば、通常の食事を摂ることができます。炭水化物を中心に、消化しやすいメニューを選びましょう。
- ごはん+鮭+味噌汁
- パスタ(トマトソースなど軽めのソース)
- うどん+おかず
揚げ物や脂っこいメニューは消化に時間がかかるため、ランニング前は避けた方が安全です。
1〜2時間前:消化の良い軽食
食事の時間が十分に取れない場合は、消化の良い軽食で対応します。
- バナナ1〜2本
- おにぎり1個
- カステラやようかんなどの和菓子
- エネルギーゼリー
この時間帯の補給は「持ち運びやすさ」も重要になります。走る前や走行中にサッと摂れるエネルギージェルを常備しておく方法もあります。味やとろみには好みがあるので、いくつか試して自分に合うものを見つけましょう。
30分〜直前:最小限の補給
直前に食べる場合は、少量の糖質で血糖値を維持することが目的です。エネルギージェル1個やスポーツドリンク200ml程度にとどめましょう。固形物は消化が間に合わず、走行中の腹痛や吐き気の原因になりかねません。
ランニング前の食事は「消化の良い炭水化物」が基本です。食物繊維が多い野菜や、脂質の多い食品は消化に時間がかかるため、ランニング直前の食事では控えめにするのが無難です。
ランニング後の食事|リカバリーを加速する栄養補給

走った後30分以内のゴールデンタイム
ランニング直後は、使った糖質(グリコーゲン)を補充し、筋肉を回復させるために、なるべく早めに糖質とタンパク質を摂るとよいとされています。次の練習まで時間が短いときほど、早めの補給を意識しましょう。
糖質を中心に、タンパク質も一緒にとれる組み合わせが手軽です。具体的には以下のような組み合わせがあります。
- おにぎり+プロテインドリンク
- バナナ+牛乳
- フルーツ入りヨーグルト
- チョコレート牛乳(糖質とタンパク質のバランスが良い)
走り終わった直後は食欲が落ちていることも多く、固形物より飲み物の方が口にしやすいこともあります。粉末を水や牛乳に溶かすだけのプロテインドリンクは、そうした場面の手軽な選択肢です。
1〜2時間後にバランスの良い食事を
ゴールデンタイムの軽食で応急的な栄養補給をした後、1〜2時間以内にしっかりとした食事を摂りましょう。タンパク質・炭水化物・ビタミン・ミネラルをバランス良く含む食事が理想です。
例えば、鶏むね肉のソテー+ごはん+野菜サラダ+味噌汁のような定食スタイルが、ランナーのリカバリー食として優れています。

長距離ランニング中の補給

60分以上走るなら補給が必要
60分以内のランニングであれば、走行中の補給は基本的に水分だけで十分です。しかし、60分以上走る場合は、体内のグリコーゲンが減少し始めるため、糖質の補給が必要になります。
目安として、1〜2.5時間の運動では、1時間あたり30〜60gの糖質を補給することがすすめられています(参考:Nutrition and Athletic Performance(米国スポーツ医学会ほかの合同声明・2016年))。エネルギージェル1個あたりの糖質量は製品ごとに違うので、パッケージの表示で確認しましょう。
水分補給の目安
ランニング中の水分補給は、一度にたくさん飲むより、少量ずつこまめに摂るのが基本です。のどの渇きを強く感じる前に飲めるよう、時間を決めてこまめに補給する習慣をつけましょう。気温が高い日は、電解質(ナトリウムなど)を含むスポーツドリンクの使用が推奨されます。
毎回ペットボトルを買っていると出費がかさむため、粉末タイプを買い置きしてボトルで作るという方法もあります。濃さを自分で調整できるのも粉末の使いやすいところです。
補給のタイミングと注意点
エネルギージェルは水と一緒に摂取しないと胃腸に負担がかかるため、必ず水分とセットで補給しましょう。また、大会当日に初めて使う補給食でお腹を壊すケースがあるため、練習の段階で本番と同じ補給食を試しておくことが重要です。
60分以上走る日にエネルギージェルを持ち運ぶなら、補給食を入れておけるランニング用のポーチがあると準備がしやすくなります。ヒマラヤオンラインストアでは、バッグ・ポーチのほか、ウェア、キャップ、ソックスなどのランニング用品をまとめて探せます。送料は税込550円で、合計税込5,500円以上なら無料です。全国のヒマラヤ店舗で受け取ることもできます。詳しくは公式サイトで確認できます。

レース前のカーボローディング
カーボローディングとは
カーボローディング(グリコーゲンローディング)は、レース前に炭水化物を多めに摂り、筋肉中のグリコーゲンを通常より多くためておく食事法です。米国スポーツ医学会などの合同声明では、90分を超える運動の準備として位置づけられており、フルマラソンなどの長距離レースが対象になります(参考:Nutrition and Athletic Performance(米国スポーツ医学会ほかの合同声明・2016年))。
具体的な方法
同じ合同声明では、レース前の36〜48時間(1.5〜2日間)、1日あたり体重1kgにつき10〜12gの炭水化物を摂ることが目安とされています(体重60kgで1日600〜720g)。パスタ、ごはん、パン、うどん、餅などを中心に食事を組み立てましょう。
ただし、総カロリーを増やしすぎると体重が増えてしまうため、脂質とタンパク質を減らして、その分を炭水化物に置き換えるイメージで行います。
レース前日の食事
レース前日は、消化の良い炭水化物を中心に食べましょう。生もの、辛い料理、食物繊維の多い食品は胃腸に負担がかかるため避けた方が安全です。
- おすすめ:白米、うどん、パスタ、餅、カステラ
- 避けたい:生魚、揚げ物、辛い料理、生野菜の大量摂取
カーボローディングはフルマラソンなど長距離レースで効果を発揮する方法です。10km以下のレースでは、通常の食事でグリコーゲンは十分に蓄えられるため、特別なカーボローディングは必要ありません。
ランナーが気をつけたい食事の落とし穴
「走ったから食べてもいい」の罠
ランニング後の達成感から食事量が増えてしまい、消費したカロリー以上を摂取してしまうパターンには注意が必要です。特にダイエット目的のランナーは、走行後の食事内容と量を事前に決めておくことで、食べすぎを防ぐことができます。
過度な食事制限
体重を減らしたいからといって食事を極端に制限すると、ランニングに必要なエネルギーが不足し、疲労骨折や免疫力の低下を招きます。「RED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)」と呼ばれるこの状態は、特に女性ランナーに注意が必要です。
サプリメントへの過度な依存
プロテインやBCAAなどのサプリメントは、あくまで食事で摂りきれない栄養素を補うためのものです。まずは通常の食事からバランスよく栄養を摂ることが基本であり、サプリメントは補助的な位置づけと考えましょう。


食事を基本にしたうえで、必須アミノ酸も手軽に意識したい方には、タニタの「アミノハピネス」という選択肢もあります。必須アミノ酸9種類を配合したスティックタイプの粉末食品で、1本10kcal。シェイカーは不要で、水や牛乳と一緒にそのまま飲んだり、ヨーグルトにかけたりして取り入れられます。詳しい内容は公式サイトで確認できます。



ランナーにおすすめの食材と献立例
積極的に摂りたい食材
- バナナ:消化が良く、糖質とカリウムを効率よく補給できるランナーの定番フルーツ
- 鶏むね肉:高タンパク・低脂肪の代表格。イミダゾールジペプチドも含まれる
- サーモン:良質なタンパク質に加え、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)が含まれる
- ほうれん草・小松菜:鉄分、カルシウム、ビタミンKが豊富
- オートミール:低GI値の炭水化物で、食物繊維とミネラルも含まれる
- ナッツ類:良質な脂質、タンパク質、ミネラルを含む間食に最適な食材
この中でもオートミールは、お湯や牛乳をかけるだけで朝食になる手軽さがあり、走る前の食事に取り入れやすい食材です。ロールドオーツやクイックオーツなど粒の大きさで食感が変わるので、好みで選んでみてください。
ランニング日の献立例
朝食(走る3時間前):ごはん1杯+鮭の塩焼き+ほうれん草のおひたし+味噌汁
ランニング後(30分以内):バナナ1本+プロテインドリンク
昼食:鶏むね肉とブロッコリーのパスタ+サラダ
間食:ミックスナッツ+ヨーグルト
夕食:サーモンの刺身+玄米ごはん+小松菜の炒め物+豆腐の味噌汁
よくある質問(Q&A)
Q. 空腹で走っても大丈夫?
朝食前の軽いジョグ(30分程度)であれば、空腹状態でも問題ないケースが多いです。ただし、長距離や高強度のトレーニングを空腹で行うと、低血糖でめまいやふらつきが生じるリスクがあるため、最低でもバナナ1本程度は食べてから走ることをおすすめします。
Q. ランニング前にカフェインを摂ると効果がある?
国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解では、カフェインは多くの研究で運動パフォーマンスを高めたとされ、体重1kgあたり3〜6mg(体重60kgで約180〜360mg)程度の量で効果が見られやすいとされています(参考:International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance)。ただし効果には個人差があり、摂りすぎには注意が必要です。ただし、カフェインに敏感な方は胃腸の不調を起こすことがあるため、練習時に試してから本番で使いましょう。
Q. お酒はランニングに影響する?
アルコールには利尿作用があるため、脱水を促進し、翌日のランニングパフォーマンスに悪影響を及ぼします。また、運動後にアルコールを摂ると、筋肉のタンパク質合成が低下したという研究もあります(参考:Parrら(2014)Alcohol Ingestion Impairs Maximal Post-Exercise Rates of Myofibrillar Protein Synthesis(PLoS ONE))。大会前日や高強度トレーニングの前日は飲酒を控えた方が賢明です。
Q. ベジタリアンやビーガンでもランニングは可能?
可能です。植物性食品でもタンパク質(大豆製品、レンズ豆、キヌアなど)や鉄分(ほうれん草、小松菜、レンズ豆など)を十分に摂取できます。ただし、ビタミンB12は動物性食品に多く含まれるため、サプリメントでの補給を検討する必要があります。
Q. 走る前にプロテインを飲んでもいい?
走る直前のプロテイン摂取は、消化に負担がかかるため避けた方が無難です。プロテインはランニング後のリカバリーとして摂取するのが最も効果的です。
まとめ
ランナーの食事管理で最も大切なのは、炭水化物を中心としたバランスの良い食事を日常的に摂ることです。ランニング前は消化の良い炭水化物を、ランニング後はなるべく早めに糖質とタンパク質を組み合わせた軽食を摂ることで、回復の助けになることが期待できます。
特別な食事法やサプリメントに頼るよりも、まずは基本的な栄養バランスを整えることが、走力向上への最短ルートです。



