冬の冷たい空気の中を走るランニングは、気持ちがシャキッとしてとても爽快。でも、油断すると「低体温症」という深刻なトラブルに見舞われることがあります。
低体温症は、体の深部体温が35℃以下に下がる状態のこと。冬場のランニングでは、汗で濡れたウェアが風に冷やされて急速に体温を奪われるケースが多く報告されています。実際にマラソン大会でも低体温症で搬送される事例は珍しくありません。
この記事では、冬のランニングで低体温症にならないための対策を、ウェアの選び方から走り方のコツまで詳しく解説します。寒い季節でも安全に走り続けたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

低体温症とは?ランナーが知っておくべき基礎知識
低体温症とは、体の中心部(深部体温)が35℃以下に低下した状態を指します。人間の体は通常36〜37℃前後に保たれていますが、寒冷環境で長時間過ごしたり、汗で体が濡れた状態で風にさらされたりすると、体が産生する熱よりも失われる熱のほうが上回り、低体温症を引き起こします。
ランニング中に起こる低体温症には、いくつかの段階があります。
低体温症の段階
・軽度(35〜34℃):激しい震え、手足のしびれ、判断力の低下
・中等度(34〜30℃):震えが止まる、意識がもうろうとする、筋肉が硬直する
・重度(30℃以下):意識消失、心拍の異常、生命の危険
特に注意すべきなのは、震えが止まった段階です。一見症状が軽くなったように感じますが、実はこれは体がもう震えるエネルギーすら残っていない深刻な状態。ランニング中に震えが急に止まったら、すぐに走るのをやめて暖かい場所に移動してください。
冬のマラソン大会では、低体温症で搬送されるランナーが毎年発生しています。東京マラソンの公式医療情報でも、低体温症は重要な注意事項として挙げられており、特にゴール後に体が冷える「ポストレース低体温症」にも警戒が必要とされています(参考:東京マラソン公式 体調管理・医療情報)。
冬のランニングで低体温症が起きる原因
なぜ走っているのに体が冷えてしまうのか。その原因を理解しておくと、効果的な対策が取りやすくなります。
汗冷えによる急速な体温低下
ランニング中は大量の汗をかきますが、冬は外気温が低いため、汗で濡れたウェアが急速に冷やされます。特に綿素材のTシャツやスウェットは汗を吸い込んだまま乾きにくく、気化熱で体温がどんどん奪われてしまいます。これが冬のランニングで低体温症が起きる最も多い原因です。冬に走るなら、まず肌に触れる1枚を吸汗速乾の化繊かメリノウールに替えるところから見直すのがおすすめです。
風による体感温度の低下(ウインドチル)
気温が5℃でも、風速が10m/sあると体感温度はマイナスまで下がることがあります。ランニングは常に前方からの風を受ける状態なので、実際の気温以上に体が冷えやすい環境にあります。向かい風のコースでは特に注意が必要です。
ペースダウンや途中で止まったとき
走っている間は体が熱を産生するため体温は維持されやすいですが、ペースが極端に落ちたり、信号待ちや休憩で止まったりすると、発熱量が一気に減少します。汗で濡れた状態で動きが止まると、体温は急激に下がります。マラソン大会のゴール直後も同様で、走り終えた瞬間から体温低下が始まります。
エネルギー不足と脱水
体温を維持するにはエネルギーが必要です。長距離ランニングでグリコーゲンが枯渇すると、体は十分な熱を作れなくなります。また、冬は喉の渇きを感じにくく水分補給がおろそかになりがちですが、脱水状態になると血液循環が悪化し、低体温症のリスクが高まります。

ウェア選びで低体温症を防ぐ!レイヤリングの基本
冬のランニングにおける低体温症対策で最も重要なのが、正しいウェア選びとレイヤリング(重ね着)です。ポイントは「汗を素早く逃がしつつ、外気の冷えから体を守る」こと。
ベースレイヤー(肌着)の選び方
肌に直接触れるベースレイヤーは、冬のランニングウェアで最も重要な1枚です。綿素材は汗を吸ったまま乾かないため、冬のランニングでは使用しないこと。ポリエステルなどの化繊素材か、メリノウールのものを選びましょう。
さらに本格的に汗冷えを防ぎたい場合は、肌とベースレイヤーの間に「ドライレイヤー」と呼ばれるメッシュ素材のインナーを挟む方法があります。ファイントラックやミレーなどのメーカーから専用の製品が出ています(参考:ファイントラック 寒いシーズン用レイヤリング)。
ミドルレイヤー(中間着)の選び方
ベースレイヤーの上に着るミドルレイヤーは、保温性と通気性のバランスが大事です。フリースや薄手のダウンベストが定番ですが、ランニング用に設計された軽量で通気性の高いものを選ぶのがコツ。重すぎると動きにくくなるし、汗をかきすぎる原因にもなります。
気温が5℃以上あればベースレイヤー+ウインドブレーカーだけで十分なケースも多いです。気温が0℃前後やそれ以下のときにミドルレイヤーを追加する、というイメージで調節してみてください。
アウターレイヤー(外着)の選び方
最も外側のアウターレイヤーは、風と雨(雪)を防ぐ役割です。防風・撥水性のあるウインドブレーカーやランニングジャケットを選びましょう。ただし完全に密閉されたものは蒸れて汗をかきすぎるので、背中にベンチレーション(通気口)があるタイプがおすすめです。
気温別ウェアの目安
・10℃前後:ベースレイヤー+薄手ジャケット
・5℃前後:ベースレイヤー+ウインドブレーカー+手袋・ネックウォーマー
・0℃前後:ドライレイヤー+ベースレイヤー+ミドルレイヤー+アウター+防寒小物フル装備
・氷点下:上記に加えて保温タイツ・厚手手袋・帽子必須
「3つの首」を守る防寒アクセサリー
ウェアのレイヤリングに加えて、首・手首・足首の「3つの首」を温めることが低体温症予防に非常に効果的です。これらの部位には太い血管が皮膚の近くを通っており、ここが冷えると全身に冷たい血液が巡ってしまいます。
ネックウォーマー・バフ
首回りをカバーするだけで体感温度がかなり変わります。バフ(多機能チューブ)は、首に巻くだけでなく帽子やフェイスカバーとしても使えるので1枚持っておくと便利です。
ランニング用手袋
指先は末端のため冷えやすく、かじかんで動かなくなると転倒時に手をつけないリスクもあります。ランニング専用の手袋は薄手でフィット感が良く、スマホ対応のタッチパネル操作ができるものも多いです。
ランニング用帽子(ビーニー)
体の放射熱の多くは頭部から失われると言われています。薄手のビーニーやイヤーウォーマーで頭部をカバーすると、低体温症のリスクをかなり抑えられます。暑くなったらポケットにしまえる薄手のものがおすすめです。

走り方・コース選びのポイント
ウェアだけでなく、走り方やコース選びでも低体温症のリスクを減らすことができます。
風向きを考えたコース設定
往復コースを走る場合、行きを向かい風、帰りを追い風になるように設定しましょう。帰りに向かい風だと、汗をかいた状態で風に当たることになり低体温症のリスクが跳ね上がります。
ペースを一定に保つ
急なペースアップで汗をかきすぎた後にペースダウンすると、汗冷えで一気に体温が奪われます。冬のランニングでは、発汗量をコントロールするためにも、なるべく一定のペースを維持することが大切です。
長時間の停止を避ける
信号が多いコースは止まるたびに体が冷えます。冬場はできるだけ信号の少ない公園や河川敷のコースを選ぶと、体温を維持しやすくなります。途中で休憩する場合は、風を防げる建物の陰やコンビニなどに入りましょう。
走る時間帯の選択
冬場は日の出前や日没後は気温がさらに下がります。可能であれば、日中の比較的気温が高い時間帯(10時〜14時頃)に走ると低体温症のリスクを下げられます。早朝ランが習慣の方は、防寒対策をより入念にしてください。
栄養と水分補給で体の中から冷えを防ぐ
体温を維持するにはエネルギーと水分が不可欠です。冬のランニングでは以下のポイントを意識しましょう。
走る前のエネルギー補給
冬場は体温維持にもエネルギーが使われるため、夏場より消費カロリーが増える傾向にあります。走る1〜2時間前に炭水化物を中心とした食事やおにぎり・バナナなどを摂っておくと、グリコーゲンが枯渇しにくくなります。
冬でも水分補給を忘れない
冬は喉の渇きを感じにくいですが、大気が乾燥しているため呼吸で失われる水分量は意外と多いのです。脱水は血液循環の悪化を招き、低体温症のリスクを高めます。20〜30分ごとに少量ずつ水分を摂る習慣をつけましょう。
温かい飲み物の活用
保温ボトルに温かいスポーツドリンクやお湯を入れて携帯するのも効果的です。体の内側から温まるので、長距離ランや練習後のクールダウン時にも役立ちます。ランニング中に持つなら、軽くて口の広い小容量タイプが扱いやすいでしょう。
もし低体温症の症状が出たら?応急対処法
万が一、ランニング中に低体温症の兆候を感じたら、すぐに以下の対応を取りましょう。
低体温症の応急対処
1. すぐに走るのをやめ、風を避けられる場所に移動する
2. 濡れたウェアを脱ぎ、乾いた衣類やブランケットで体を包む
3. 温かい飲み物があれば少量ずつ飲む(意識がはっきりしている場合のみ)
4. 脇の下や首回りをカイロ等で温める
5. 症状が改善しない、意識がもうろうとしている場合はすぐに119番通報
震えが止まらない、呂律が回らない、判断力が落ちているといった症状は、低体温症の中等度以上の可能性があります。自力で歩けない場合は無理に動かさず、救急車を呼んでください(参考:スポーツ安全協会 低体温症の警告サイン)。

マラソン大会での低体温症対策
冬のマラソン大会では、スタート前の待ち時間やゴール後に低体温症になるケースが多く報告されています。大会ならではの対策も押さえておきましょう。
スタート前の防寒
スタート地点での待ち時間は30分〜1時間以上になることもあります。100円ショップのレインコートやゴミ袋で作った簡易ポンチョを羽織り、スタート直前に脱いで捨てるランナーが多いです。使い捨てカイロもスタート前に活用しましょう。大会当日は多めに持っていくと、荷物預け後の待ち時間にも使えます。
ゴール後の体温低下に備える
ゴール後は急激に運動量が落ちるため、汗冷えで体温が一気に下がります。ゴール後用に着替えや保温ブランケットを荷物に入れておき、できるだけ早く着替えることが大切です。多くの大会では防寒用のアルミシートが配られますが、それだけでは不十分な場合もあります。自分用に厚手のものを1枚用意して、荷物に入れておくと安心です。
雨天レースの判断
雨の中のマラソンは低体温症のリスクが大幅に上がります。撥水性のウインドブレーカーを着て走る、無理をせずDNF(途中棄権)を選択する勇気も大切です。体が震え始めたら即座にレースを中止し、最寄りの救護所へ向かいましょう。
Q&A:冬のランニングと低体温症に関するよくある質問
Q. 気温何度以下だと低体温症のリスクが高い?
A. 一般的には気温10℃以下で風がある環境では注意が必要です。ただし、雨で衣類が濡れている場合は15℃程度でも低体温症が起きることがあります。気温だけでなく、風速と湿度も含めた体感温度で判断しましょう。
Q. 走り始めは寒く感じても途中から暑くなります。どう対処すればよい?
A. 「走り出しにちょうどいい服装だと走っている間は暑すぎる」というのがセオリーです。スタート時に少し肌寒いと感じるくらいの服装がちょうど良いとされています。外気温+10℃くらいの気温に合わせた服装が目安です。
Q. ヒートテックなどの発熱素材はランニングに向いている?
A. ヒートテックのような吸湿発熱素材は、日常生活には適していますが、大量に汗をかくランニングでは乾きが遅く、汗冷えの原因になることがあります。ランニングには吸汗速乾性に優れたスポーツ用ベースレイヤーのほうが適しています。
Q. 低体温症と「冷え性」は違うの?
A. 冷え性は手足の末端が冷たく感じる状態で、体の深部体温は正常範囲内です。一方、低体温症は深部体温自体が35℃以下に低下する状態で、全身の機能に影響を及ぼすもっと深刻な状態です。ただし、冷え性がある方は末端の血流が悪くなりやすく、結果的に低体温症にもなりやすい可能性があります。
まとめ:正しい準備で冬ランを安全に楽しもう
冬のランニングで低体温症を防ぐためのポイントをまとめます。
- ウェアは化繊やメリノウール素材を選び、綿は避ける
- レイヤリング(ベース・ミドル・アウター)で体温調節する
- 首・手首・足首の「3つの首」を防寒アクセサリーで守る
- 風向きや時間帯を考えたコース選びをする
- 冬でも水分補給を忘れずに行う
- 震えが出たら走るのをやめてすぐに対処する
- マラソン大会ではスタート前とゴール後の防寒も計画する
寒い季節でもランニングを続けることは体力維持やストレス解消に効果的です。正しい知識と準備があれば、低体温症を防ぎながら冬のランニングを思いきり楽しめます。無理をせず、自分の体と相談しながら走りましょう。


